ドイツの卒後研修規則(総論部分)の翻訳をd124.htmに掲載
専門医試験は§14から§18、研修指導医の規定は§8、§9に
T604
ドイツの専門医試験
ドイツのノルトライン州医師会の「業務報告2002」に、専門医試験の実施について、通常入手できないような具体的のことが、かなり詳しく述べてあったので、簡単に紹介します。
ドイツの専門医試験は、私たちが想像していなかったシステムではないかと思います。世界にはこのような試験を行っている国があることを、この機会に是非知っておいて下さい。
ドイツでは口答試験を昔から大変重視しています。日本で「ムント」と言われてきた試験とは名称が同じでも、その中身は大変厳格で異質のものと言えます。ドイツ人は口答試験の方が筆答試験より実力がはっきり分ると考えており、医師医師国家試験でも大幅に口答試験を取り入れています。その場合重要なのは、研修を指導した各コースの指導医の作成する詳細な研修報告書と、その指導医の評価が試験委員会に集まっていて、それを事前に審査しているということです。医師会が人格も含めて認定した専門医が指導医になります。指導医の指導が適切であるか、その評価が正しいかどうかも審査されているようなものかと思います。
ここで紹介するのは、人口1千万人のノルトライン州医師会でのデータです。ドイツの人口は8千万人余ですから、ここに述べた数の8倍に相当する数の専門医試験がドイツ国内で行われている勘定になります。
専門医の種類はサブスペシャルティを含めて70科ほどあり、その他に試験の対象となる付加的資格が数十あります。ノルトライン医師会は2001年に、これら全ての領域において2062人の試験を行っています。その不合格率は6.59%です。ちなみに、最近の不合格率は以下の通りです。
1995年 6.92%
1996年 6.62%
1997年 7.54%
1998年 6.15%
1999年 7.10%
2000年 6.48%
2001年の統計では、不合格者の割合は一般医学(家庭医)、内科、小児科でやや高く、麻酔、整形外科、精神科、泌尿器科では低い傾向がみられました。
ちなみに、日本では日常「合格率」という言葉を使いますが、ドイツは「不合格率」という言葉を使い、その率を表示することが多いようです。
専門医の口答試験は、最低3名の試験官で一つの試験委員会を形成し、その中には受験者の専門と同じ科の専門医が必ず試験官として入ります。試験の傍聴も許されています。1名の受験者は3名の試験官から質問され、30分かけて試験され、判定は多数決です。ここで合格しないときは3ヶ月から2年間の研修の延期、あるいは特定の勉強が必要であることが指示されて再試験となりますが、平均的にみて6ヶ月後ということだそうです。
口答試験は医師会の建物で行われますが、1年間を通して20日近くの試験日(土曜日)を組んで実施されます。1日に組める試験委員会の数は35まで、そして1日に試験できるのは120名くらいです。3名の試験官がフルタイムで試験しても、1日に4名の受験者の試験が限度だそうです。応募者の少ない専門科ですと、一人の受験者であっても3名の試験委員が集まります。筆答試験のような一斉試験ではないので、受験生や試験委員への連絡は電話も含めてかなりの数に達します。そして20,700通の研修証明書と資料が、内容の事前審査のために試験委員会に送付されます。
アメリカや日本はマルチプルチョイスのような筆答試験を重視しているようですが(?)、大変な手間をかけて試験官3名と受験者1名が30分間顔を合わせて試験するドイツの方法を皆さんはどのように感じられるでしょうか。
岡嶋道夫